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広島高等裁判所 昭和41年(ネ)260号 判決 1967年3月06日

控訴人・原告 本多節造

被控訴人・被告 吉村太一郎

訴訟代理人 鍋谷幾次

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し原判決添附別紙目録記載の不動産につき、代物弁済による所有権移転登記手続をせよ。被控訴人は控訴人に対し、昭和三二年一月一日より右登記手続完了に至るまで右不動産につき反当り年一万円の割合による金二二、四〇〇円の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、原判決一枚目裏一〇行目「被告」を「吉村勲男」と訂正する外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人が本訴において主張する控訴人の吉村勲男に対する金七万円の貸金債権については、控訴人より右吉村勲男に対する貸金等請求事件の確定判決によりその存在が否定せられていることは当事者間に争いがない。そして、本件記録によれば、控訴人より吉村勲男に対する山口簡易裁判所昭和三六年(ハ)第五八号貸金等請求事件において、右貸金請求につき控訴人勝訴の判決が言渡されたが、その控訴審(山口地方裁判所昭和三七年(レ)第三五号事件)において右第一審判決は取消され、右貸金債権は右当事者間において当初から成立していなかつたことを理由として控訴人の請求が棄却され、その上告審(広島高等裁判所昭和三九年(ツ)第一号事件)において昭和三九年一月三〇日上告棄却の判決の言渡があり右第二審判決が確定したこと、そして吉村勲男は昭和四〇年四月二八日死亡し、被控訴人は同人の相続人の一人であつて右訴訟事件(以下前訴という)につき民訴法二〇一条にいわゆる口頭弁論終結後の承継人にあたることを認めることができる。

控訴人は本訴において、「控訴人は被控訴人の亡父吉村勲男に対し昭和三一年七月一五日金七万円を貸付けたが、その約旨によれば同人が同年一一月三〇日までに右貸金を返済しないときは、同人所有の原判決添附別紙物件目録記載の本件田四筆を代物弁済として控訴人に譲渡し、その移転登記手続をすることになつていた。ところが勲男は弁済期日を過ぎても約旨を履行しないまま死亡し、被控訴人が相続により本件物件の所有権移転登記手続をなすべき義務を承継した。よつて、右登記手続とその完了に至るまで本件物件につき反当り年一万円の割合による遅延損害金の支払を求める。」と主張する。前訴の確定判決の既判力は、控訴人が本訴において主張する右金七万円の貸金債権が前訴の第二審の口頭弁論終結当時存在しなかつたという点について生ずるのみであつて、右判決の理由である右貸金債権が当初から不成立であつたという点については生じないのであるから、前訴の第二審口頭弁論終結前に代物弁済により本件田地四筆を取得したと主張する控訴人の本訴請求は前訴の確定判決の既判力に抵触しないかの如き観がある。

しかしながら、前訴の判決において右貸金債権が当初から不成立であるとの理由で、その不存在が確定しているのであるから、控訴人が本訴において本件田地四筆を右貸金の代物弁済として取得したと主張することは前訴の判決理由と論理的に矛盾する。しかも、控訴人は現に東京都に住所を有するものであるから、本件農地につき山口県知事の許可を受けてこれを取得しうる可能性はほとんどない。それなのに、控訴人が前訴の確定判決の理由を無視し、東京地方裁判所に本訴を提起したのは、被控訴人の主張するように、いたずらに被控訴人に応訴の苦痛を与える目的に出たものと推測せざるをえない。相手方に応訴の苦痛を与える目的で、すでに前訴において解決せられた紛争を、いたずらに形をかえてむしかえそうとするが如きは、確定判決の効力を尊重し、紛争のむしかえしを防ぐための既判力制度の趣旨から是認し得ないのみでなく、信義誠実の原則に照らしても許すべからざるところである。したがつて、本件の如き場合においては、前訴の確定判決の理由である右貸金債権が当初から不成立であつたという判断についても、既判力類似の拘束力を肯定し、控訴人は本訴において右判断に反する事実を先決問題として主張し得ないと解することが、民事訴訟における信義誠実の原則の適用として要請される。そうだとすれば、控訴人は本訴において右貸金債権の成立を主張し得ないこととなる結果、控訴人の本訴請求は、その理由のないことが明らかであつて、失当としてこれを棄却すべきものである。原判決は右と理由を異にするけれども、結論において正当であるから、本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 辻川利正 裁判官 浜田治)

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